以前はLe pavilion des Sessions と銘打たれて似たような展示をしていたものが、La Galerie des Cinq Continents (五大陸のギャラリー)として2025年末にリニューアルオープンしました。以前は西洋に限らずどこの芸術も同様に尊いものだと示すのが目的でした。それが当然の認識となった今、新たな試みとして、制作時期も場所も異なるけれど共通点を持つ作品を並べたそうです。実際、このエリアでは場所や時代を超えて、生死などの普遍的なテーマで作品が分類されています。

入り口にはモアイが立っています。太平洋に浮かぶイースター諸島からやってきた、本物のモアイです。パリでモアイを見られるとは驚きです。
生と死
最初のエリアには人類普遍のテーマ、「生と死」に関する作品が展示されています。

子育て中の身として、授乳している母子像が印象に残りました。こちらは村の英雄の姪、Emetejevweさん(読めない…)の像です。元々は子孫繁栄を願って、神殿の中に安置されていたそうです。
母親は真顔で少し怖いけど、赤ちゃんが懸命にお乳に吸い付いている様子がよく表現されています。荒々しい木彫りなのに、不思議と赤ちゃんのお肌はすべすべに思えるし、愛おしさが伝わってきます。
19世紀のナイジェリアの作品で、意外と最近の作品だなという印象を受けました。西洋の写実的な作品に慣れすぎていたのかも。写実を極めることがゴールだという自分の思い込みに、この後何度も気づかされました。
信仰

続いては信仰のコーナー。ここでは不思議な出立ちの像が気になりました。頬の青い線、剥き出しの歯、でべそ、身体の白黒模様など、謎の多い人物です。
こちらはナイジェリアのイドマ族に広く知られている水の妖精、anjenuだそうです。不作や子供の早逝など、さまざまな災いの元でもあります。一方で、ケ・ブランリ美術館の解説によると、子孫繁栄を司る存在Ekotameの像という説もあるそうです。結局いいやつなのか、悪いやつなのか、それすらも謎ですね。でべその理由もわからず、調べてなお謎多い作品です。
権力


Sculpture de grade turu kuru (右)
続いては権力の誇示のコーナーです。カッコいいアエリウス・セザールの石像と、しょぼくれた青いおじさんが同じ部屋に展示されているのが、なかなか面白いです。
意外とセザール像が136年頃の作品で古く、青いおじさんは19世紀の作品です。ここでも、リアルな作品が新しいとは限らないことに驚かされました。というか、リアルってなんでしょうね。なんとなく西洋彫刻の理想化された肉体がリアルだと思い込んでいたけれど、冷静に考えると、私は青いおじさんの方に似ているかもしれない…。
アエリウス・セザールは、ローマ皇帝ハドリアヌスの後継者と目されていた人物でしたが、残念ながら早逝したそうです。ギリシャ彫刻のように理想的な肉体として彫ることで、権力を表現しているそうです。
青いおじさんはオセアニアのバヌアツ共和国マロ島の高官で、左手首の腕輪と髪飾りが権力を誇示しています。髪飾りの浮彫やお腹の模様は、昇進のお祝いで生贄に捧げられた豚の顎を模しているのだとか。あまり楽しくなさそうな表情や猫背で内股なポーズが、私にはどうしても弱々しく見えてしまうのですが、マロ島ではそんなことないのかな。
権威の確立
ここでは所有者が権力を誇示できるような貴重な品が展示されていました。

こんなHUNTER×HUNTERにでも出てきそうな、いわくありげな謎の物体もありました。実際にはコレはインカ帝国の支配者が臣下にトウモロコシビールを贈る際に使った壺で、一見不気味なトゲトゲは雨・水・豊穣を想起させる貝を模したものだそうです。めでたい品だったんですね。

Brule-parfum en forme de faucon (右)
他にも龍が描かれた中国の壺や、ハヤブサを模した香炉などがありました。洗練された品が多くて、私も欲しくなってしまいました。遠いフランスの地で東アジアの品を見ると、なんだか懐かしくて嬉しくなります。
ラッキーアイテム
ここでは運命に影響を与えるとされるラッキーアイテムが展示されています。

丑の刻参りされまくった熊!?のような、この釘だらけの彫刻は、正しくはコンゴの犬型のお守りです。神官が釘を打ち込むことで、お守りの効力が発揮されるのだとか。この犬型のお守りは、災いの大元を追い詰めるために目と顎を大きく開いているそうです。
世界
世界とは何で、どのように生じたのか。これはどの大陸にも共通する根源的な問いです。

この柱に刻まれているのは人喰い鬼だそうです。美術館の説明だと、北米で有力な一族が力を誇示するための宴の初回に、この鬼も参加していた(→宴の起源を知っている)とのことでしたが、私はむしろ授乳のモチーフの方が気になりました。作品の説明を読まなければ、人喰い鬼だとは気づかなかったでしょう。誰しも母親から生まれてこの世界に出てくる以上、出産と世界の起源とは切り離せないのだなと思いました。
そう思うと、クールベ『世界の起源』も想起されます。オルセー美術館で出会った、あまりに衝撃的な絵画です。。。
自然
時と場所を問わず、土地が豊穣であること、十分な資源を確保できることは、とても重要でした。厳しい自然との調和を求めて、人々は様々な儀式を行いました。ここでは儀式に使われた品などが展示されています。

ドラゴンの胃袋から無傷で出てきたという言い伝えから、聖マルガリータは妊娠中の女性を守護するとされています。写真のような聖マルガリータ像は、新婦や妊婦にお守りとして贈られることが多かったそうです。写真の像は1500年頃にベルギーで作られたものですが、安産を祈る温かい心は現代日本のそれと同じですね。
人ならざる者の世界
人間をそれ以外の生物から隔てるものは何か。これもまた様々な作品が投げかけてきた問いです。半人半獣の生き物やキメラといった作品は、人と獣の境界の移ろいやすさを示しています。

こちらの作品を見て、頭が狛犬で身体は青龍のようなのでアジアの作品かと思ったのですが、なんと12世紀フランスの作品でした。聖書に出てくる竜や蛇のような化け物、「アスプ」を模しているそうです。でも、神社の屋根瓦にいても違和感ないと思う。何となく親近感を覚えました。
感想
古今東西の芸術作品が集められていて、ルーヴルの他の部屋とは全く異なる雰囲気で面白かったです。振り返ってみると、私は出産・育児関連の作品に惹かれがちでした。それは今の私にとって、育児が生活の中心にあるからでしょう。五大陸のギャラリーを訪れるタイミングが違っていたら、他の作品に興味を持ったかもしれません。
鑑賞者のその時の価値観によって、十人十色の鑑賞ができるのが五大陸のギャラリーの魅力だと思います。お時間のある方はぜひ、五大陸のギャラリーにも足を伸ばしてみてくださいね。